行政書士試験重要過去問セレクト解説

 これまで、行政書士試験の過去問から重要問題を選んでホームページ上で解説する「行政書士試験ミニミニ講座」を実施して参りました。ここでは、過去のミニミニ講座からの抜粋を以下に挙げておきます。行政書士試験の傾向の変遷とそれへの対策という観点から説明してあります。皆様の学習にお役立てください。


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平成26年行政書士試験 第3問

【問題】 憲法13条に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 幸福追求権について、学説は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であると解するが、判例は立法による具体化を必要とするプログラム規定だという立場をとる。
2 幸福追求権の内容について、個人の人格的生存に必要不可欠な行為を行う自由を一般的に保障するものと解する見解があり、これを「一般的行為自由説」という。
3 プライバシーの権利について、個人の私的領域に他者を無断で立ち入らせないという消極的側面と並んで、積極的に自己に関する情報をコントロールする権利という側面も認める見解が有力である。
4 プライバシーの権利が、私法上、他者の侵害から私的領域を防御するという性格をもつのに対して、自己決定権は、公法上、国公立の学校や病院などにおける社会的な共同生活の中で生じる問題を取り扱う。
5 憲法13条が幸福追求権を保障したことをうけ、人権規定の私人間効力が判例上確立された1970年代以降、生命・身体、名誉・プライバシー、氏名・肖像等に関する私法上の人格権が初めて認められるようになった。


【正解】 3

【解説】
1 誤
 幸福追求権が、具体的権利かプログラム規定かを問う問題です。ちなみに「具体的権利」というのは、裁判で救済を求めることができる権利ですね。抽象的権利とかプログラム規定というのは、裁判で救済を求めることができるほど具体化していない権利です。
 判例は、「警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない」(最判昭44.12.24)として、肖像権に基づく判での救済を認めるなど、幸福追求権の具体的権利性を認めています。
 よって、判例は、幸福追求権をプログラム規定と考えているという本肢は誤っています。

2 誤
 幸福追求権は、新しい人権の根拠となる一般的・包括的な権利ですが、新しい人権として、どのようなものまで認められるのかについては、学説上の対立があります。
 本肢で問われている「一般的行為自由説」は、この範囲を非常に広く考え、人の一般的な行為の自由(例えば、「食べる自由」、「歩く自由」など)まで幸福追求権で保障されると考えます。しかし、これでは、人権の範囲があまりに広くなりすぎ、人権の価値が薄まってしまう(人権のインフレ化)と批判されています(合格点突破講座「憲法」本論編P17参照)。
 そこで、幸福追求権は、個人の人格的生存に不可欠なものに限られるとする学説(人格的利益説)が通説となっています。要するに、人間が人間らしく生きていくためにどうしても必要な権利に限定して、新しい人権として認めていくという考え方です。
 本肢は、「個人の人格的生存に必要不可欠な行為を行う自由」とありますから、人格的利益説の説明であり、これを「一般的行為自由説」としている点で誤っています。

3 正
 プライバシー権の意味については、「私生活をみだりに公開されない権利」と考えるのが一般的です(「宴のあと」事件、東京地判昭39.9.28)。要するに、自分の情報について「公開するな」と不干渉を求める自由権的な権利と考えられてきました。
 しかし、その後の情報化社会の進展により、単に「公開するな」と主張するだけでは不十分な事態が生じてきました。例えば、インターネット社会においては、自分の情報がどのように収集・管理され、どのように使われているのかを知り、必要な措置をとるところまで保障されなければ、個人の人格的生存のために十分とは言えないと考えられます。
 そこで、有力な学説は、プライバシー権を「自己情報コントロール権」と考え、プライバシー権に基づいて、自分の情報の開示を求めたり、訂正や抹消の請求(自己情報のコントロール)まで可能とします(合格点突破講座「憲法」本論編P17参照)。この見解は、プライバシー権の請求権的側面を認めたものということもできます。
 以上より、本肢は誤っておらず、「正しい」となります。

4 誤
 前半の「プライバシーの権利が、私法上、他者の侵害から私的領域を防御するという性格をもつ」という部分は正しいです。私生活の暴露という侵害から、「公開するな」と主張することで、私的領域を防御するわけですね。
 これに対して、後半の自己決定権に関する記述は誤っています。自己決定権は、「個人が、一定の個人的な事柄については、公権力から干渉を受けることなく、自ら決定することができる、というもの」です(合格点突破講座「憲法」本論編P18参照)。個人的な事柄についての決定権ですから、「公法上、国公立の学校や病院などにおける社会的な共同生活の中で生じる問題を取り扱う」というわけではありません。「どぶろく作りの自由」や「髪型の自由」、「喫煙の自由」などを思い浮かべればわかると思います。  よって、本肢は誤りとなります。

5 誤
 人格権というのは、生命・身体、名誉・プライバシー、氏名・肖像等、個人の人格に関わる様々な利益について、保護を求める権利のことです。本問で問われている「私法上の人格権」というのは、私人から身体や名誉などを傷つけられた場合に、保護されるべき権利のことです。これは、民法710条に規定があるように、古くから認められてきたものです。これを憲法上(公法上)の権利にする理論が、幸福追求権に基づく新しい人権であったわけです。
 このように、「私法上の人格権」は古くから認められており(民法710条など)、1970年代以降に初めて認められたわけではありませんので、本肢は誤っています。

★本問は、幸福追求権というごく基本的な事項を問う問題ですが、一般的行為自由説や自己情報コントロール権説などの学説、さらには自己決定権や人格権の理解を試しており、まさに「基本的事項を突っ込んで問う」という近時の難化傾向の方向性の一つを示しているものと言えるでしょう。薄い学習では対応できない問題だと思いますので、普段から、こうした「本試験レベル」の事項を学んでおくことが重要と言えるでしょう。



平成17年行政書士試験 第4問

【問題】 次の文章は、ある最高裁判決の補足意見の一節である。選択肢1〜5のうち、この補足意見とは考え方の異なる見解はどれか。

 選挙運動においては各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示されなければならないのではあるが、それは、あらゆる言論が必要最少限度の制約のもとに自由に競いあう場ではなく、各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従って運動するものと考えるべきである。法の定めたルールを各候補者が守ることによって公正な選挙が行なわれるのであり、そこでは合理的なルールの設けられることが予定されている。このルールの内容をどのようなものとするかについては立法政策に委ねられている範囲が広く、それに対しては必要最少限度の制約のみが許容されるという合憲のための厳格な基準は適用されないと考える。 (最判昭和56年7月21日刑集35巻5号577頁以下)

1 憲法47条は、国会議員の選挙に関する事項は法律で定めることとしているが、これは、選挙運動については自由よりも公正の観点からルールを定める必要があり、そのために国会の立法裁量の余地が広い、という趣旨を含んでいると考えられる。
2 国会は、選挙区の定め方、投票の方法、日本における選挙の実態など諸般の事情を考慮して選挙運動のルールを定めうるのであり、これが合理的とは考えられないような特段の事情のない限り、国会の定めるルールは各候補者の守るべきものとして尊重されなければならない。
3 公職選挙法による戸別訪問の禁止は、表現の自由を制限するものと考えれば、これを合憲とするために要求される厳格な基準に合致するとはいえないが、選挙の公正を確保するためのルールであると考えられるので、そこに一定の合理的な理由が見出される限りは、国会の立法裁量を尊重すべきであり、合憲的な規制であると考えられる。
4 戸別訪問には、選挙人の生活の平穏を害し、買収・利害誘導等の温床になりやすいなどの弊害が伴うことは否定できない一方、これを禁止する公職選挙法の規定は、自由な意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法がもたらす弊害の防止を目的としているにすぎないから、厳格な基準は適用されず合憲である。
5 もとより戸別訪問の禁止が、選挙の公正を確保するための立法政策として妥当であるかどうかについては、考慮の余地があり、実際、戸別訪問の禁止を原則として撤廃すべしとする意見も強いが、これは、その禁止が憲法に反するかどうかとは別問題である。


【正解】 4

【解説】
 戸別訪問の禁止等の選挙運動の規制の合憲性については、その理論構成にいろいろな考え方があります。本問は、そうした考え方の違いを問う問題で、学説問題の一種と考えられます。学説の対立を知っていれば容易に解けますが、各説の違いを明確には知らなくても、判例の見解(結論だけでなく、この場合の理論構成と合憲性判定基準)をしっかり押さえていれば、推論することは可能な問題です。

 まず、見解の違いを簡単に説明しておきます。
 判例(多数意見)の考え方は、戸別訪問の禁止は、意見表明の手段方法の制約であり、合理的で必要やむを得ない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない、とします(最判昭56.6.15)。つまり、戸別訪問の禁止は、表現内容の規制ではなく表現手段・方法の規制ですから、「合理的で必要最小限度かどうか」という基準で合憲性を判断し、戸別訪問を禁止することは、合理的で必要最小限度の規制といえるから合憲とするわけです。
 ここまでは、行政書士試験対策としては基本的な知識といえますので、しっかり理解して頭に入っている必要があります。
 これに対して、以下のように別の理論構成をとる考え方もあります。

A説.戸別訪問の禁止等の選挙運動の規制を、選挙運動という一種の競争を公平に行わせるためのルールの設定と解し、その設定は合理的とは考えられないような特段の事情のない限り、国会の裁量に委ねられるとする見解(最判昭56.7.21における伊藤正己裁判官の補足意見)

B説.厳格な基準で判断し、戸別訪問の禁止は憲法21条に違反するという見解

 B説は、判例の見解よりも厳しい基準で判断する結果、違憲となるという考え方です。他方、A説は、判例よりも緩やかな基準を用いて合憲性を導く考え方です。
 問題文の「補足意見」はA説にたっていることが明らかですので、この見解の対立を知っていた方は、容易に正解できたと思います。

 ただ、こうした見解の対立を明確には知らなくても、戸別訪問の禁止について判例が用いている合憲性判定基準が「合理的で必要最小限度かどうか」であることを知っていれば、問題文の「補足意見」は、「立法政策に委ねられている範囲が広い」点、さらには、「必要最少限度の制約のみが許容される」という基準は適用されない点で異なっている点がすぐにわかると思います。

 その上で、選択肢を検討していくと、肢1〜3はいずれも広い立法裁量を認める見解ですから、問題文に合致することがわかると思います。また、肢5は、立法政策としての妥当性に触れたもので、広い立法裁量を認める問題文の考え方と矛盾するものではありません。
 それに対して、肢4は、「意見表明の手段方法がもたらす弊害の防止を目的としているにすぎない」というところから、表現内容ではなく表現手段の制約であるがゆえに厳格な基準を用いるべきではない(つまりB説にたつべきではない)とする趣旨です。これはまさに判例の見解ですから、問題文の「補足意見」とは異なる考え方となります。よって、正解は4となります。

★本問は、学説を前提にした問題ということで、行政書士試験の難化傾向の一つの現れと捉えられるものです。こうした問題については、当塾講座の法解釈編で学ぶような学説を知っておくということは対策として有効ですが、まずは、当塾本論編でやるような判例の理論構成をしっかり身につけておくことが前提となります。こうした基礎が身に付いていれば、上記解説にもありますように、なんとか推論できる問題ということはいえるでしょう(もちろん、学説の対立を知っていた方がかなり容易に解くことができます)。ただ、いずれにしても、判例の結論だけを覚えるような昔ながらの行政書士試験対策では到底対応できないものとなっています。普段の学習からこのような行政書士試験の新傾向に対応した学習をする必要があるといえるでしょう。



平成15年行政書士試験 第27問

【問題】 Aが以下のような状況で契約した場合、大審院ないし最高裁判所の見解に立つと、本人に契約上の効果が帰属することになるものはどれか。

1 本人所有の甲不動産を処分するための代理権を与えられているAが、Bに甲不動産を譲渡する際、Bから受け取る代金は専ら自己の借金の返済に使うという意図をもって代理人として契約をしたが、Bは取引上相当な注意をしてもAのそのような意図を知ることができなかった場合
2 請負人とAとの間で下請負契約が締結されていたので、Aは工事材料の買い入れにあたって請負人を本人とし、自己がその代理人であるとしてBと契約をした場合
3 代理権限の与えられていないAが、本人の代理人である旨を記載した白紙委任状を偽造して提示し、代理人と称したので、Bがそれを信頼して契約をした場合
4 本人の実印を預かっていたにすぎないAが、友人がBから借金をするのに、本人の代理人と称し、預かっていた実印を用いてBと保証契約をした場合
5 本人から投資の勧誘を行う者として雇われていたにすぎないAが、本人の代理人としてBと投資契約をし投資金を持ち逃げした場合


【正解】 1

【解説】
肢1 本人に契約上の効果が帰属することになる
 本問のAは、相手方から受け取る代金を専ら自己の借金の返済に使うという意図を持って相手方と契約をしていますから、代理権を濫用しているといえます。しかしながら、形式的には「甲不動産を処分する」という代理権の範囲内の行為を行っているのですから、Bとの契約は本人に帰属することが原則です。たまたま代理人が自己の利益を図るために代理権を濫用したからといって、代理で締結した契約の効果が本人に帰属しなくなるのでは、本人と取引したと思って不動産を譲り受けたBの利益を害することになるからです。むしろ、そのような代理人を選任した本人がリスクを負うべきなのですね。
 ただ、Bが実はAは私利のために行動しているということに気づいていたら、そのようなBを保護する必要はありません。以上のような価値判断から、最高裁判決は以下のように法律構成をしました。すなわち、本人と代理人Aを一体としてみると、その人はその真意に反する意思表示を行ったということになる。そして、ある人が意図的に真意に反する意思表示を行ったときの効果について定めているのは、93条の心裡留保であるから、この場合、93条但書を類推適用して、相手方が真意を知っているとき、つまり代理人Aの行動は本人のためのものでなく、代理権の濫用だと知っているとき、または知りうべかりしときには、代理人によってなされた意思表示の効果は本人に帰属しないとしました。
 以上に本問をあてはめてみますと、本肢はBが取引上相当な注意をしてもAのそのような意図を知ることが出来なかった場合ですので、本人に契約上の効果が帰属することになります。

 丁寧に解説すると上記のようになりますが、本番では、「受け取る代金は専ら自己の借金の返済に使うという意図をもって」という部分を読んで、すぐに”代理権の濫用だ!”と気づく必要があります。そして、判例は93条を類推適用することを思い出して、あてはめて、答えを導くことになります。

肢2 本人に契約上の効果が帰属することにはならない
 本肢の場合、請負人とAとの間で下請負契約が締結されていますが、下請負契約が結ばれていても、原則としてそこから代理権が出てくるわけではありません。
 したがって、Aの本件工事材料の買い入れ行為は、無権代理行為となります。また、表見代理が成立する事情もありませんので、本人に契約上の効果は帰属しません。

肢3 本人に契約上の効果が帰属することにはならない
 本問のAは、代理権が与えられていないので、無権代理人です。では109条の代理権授与表示による表見代理は成立するでしょうか。白紙委任状を本人が交付した場合は、代理権の授与表示となり得ることもあります。ただ、本問の場合、全く代理権限を有していないAが、勝手に白紙委任状を偽造しているのですから、本人に帰責性はなく、代理権授与の表示があったことにはなりません。よって、109条の表見代理は成立しません。以上から、本人に契約上の効果は帰属しません。

肢4 本人に契約上の効果が帰属することにはならない
 Aは本人の実印を預かっているにすぎませんから、代理人ではありませんので、本件保証契約は無権代理行為となり、本人に効果は帰属しないのが原則です。では、表見代理が成立するのでしょうか。まず、110条で要求される基本代理権があるかが問題となります。この点、実印を預けただけでは特定の代理権を付与したものということはできませんので、基本代理権はなく、110条の表見代理は成立しません。次に、109条が成立するが問題となりますが、実印を預けただけでは他人に代理権を与えたる旨を表示したことにはなりませんので、109条の表見代理も成立しません。以上から、表見代理は成立しないので、契約上の効果は本人に帰属しないことになります。

 肢3・4については、丁寧に解説すると上記のようになりますが、単純に本人に帰責性がないからという理由で切ってもよいでしょう。

肢5 本人に契約上の効果が帰属することにはならない
 Aは本人と代理契約を結んでいませんので、投資契約は無権代理行為です。では、表見代理が成立するのでしょうか。すなわち110条が要求する基本代理権があるのか、110条の基本代理権は、投資の勧誘のような事実行為も含むのかが問題となります。この点最高裁は、基本代理権は原則として法律行為の代理権でなければならないという立場をとりますので、投資の勧誘行為は法律行為ではないので、110条の基本代理権とはなりえないと解釈しています。よって、表見代理は成立しません。以上から本件行為の効果は本人に帰属しません。

★出題されている判例は行政書士試験のレベルにおいてもそれほど難しいものではありませんので、正解したい問題です。ただ、事例形式ですので、民法の条文・判例を行政書士試験の現場で「使える」レベルまで磨き上げていることが必要です。本問がわからなかったという方は、基本的な条文・判例を事例形式で理解し、さらに公務員試験問題集などで使い方を学ぶようにしましょう。



平成14年行政書士試験 第2問

【問題】次の文章は、19世紀のドイツのある法学者の文章を訳したものである。文中のAに入れるのに最も適当な語はどれか。

「憲法典のAを、憲法のAと混同してはならない。法律畑にいない人は、法命題は制定法に規定されていなければ存在しないものと考え、法学の任務が制定法の字句解釈に尽きるとみなす誤りに、陥りやすい。そして、ある特定の法命題が制定法によって定められているか否かは、しばしば、ほとんど無意味な偶然に左右される問題であることが、認識されないのである。けれども憲法典のAは、争われている問題の解決を、よりー般的な法原理から導く作業を要請するだけのことである。」

1 慣習法
2 法諺
3 欠缺
4 擬制
5 禁反言



【正解】 3

【解説】
 いわゆる現場思考型の問題で、行政書士試験が始まったばかりの第2問ということもあって、とまどった方もいらっしゃるかもしれませんが、落ち着いて解けば難しい問題ではありません。
 「法律畑にいない人は、法命題は制定法に規定されていなければ存在しないものと考え」というところから、法律を知らない人は、制定法つまり条文がない場合、法もないという誤りに陥りやすいということを言っていることがわかります。そうすると、3の欠缺が正解とわかりますね。一応最後のAに欠缺を入れてみると、「憲法の条文が欠けていても、より一般的な法原理から導く作業が要請されるだけ」=例えば、憲法の人権の具体的な条文が欠けていたとしても、自然権や個人の尊厳といったより一般的な法原理から、その人権が憲法上保障されていることを導ける、ということで意味が通じます。
 また、本問を解く上では、「イギリスには憲法典はないが、憲法はある」といった、形式的意味の憲法と実質的意味の憲法に関する理解があれば、より容易に解けたと思われます。
 行政書士試験の基礎法学では、このような憲法総論の理解もよく問われますので、押さえておく必要があるといえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第3問

【問題】「国民代表」についての次の記述のうち、他の選択肢とは異なる考え方に基づくものはどれか。

1 参議院については、全国を一選挙区として選挙させ、特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによって、職能代表的に運営すべきである。
2 衆議院については、都道府県を一選挙区として選挙させ、都道府県住民の意思を集約的に反映させることで、地域代表の色彩を加えるべきである。
3 代表とは、社会構造の複雑・多様化にとともなって社会の中に多元的に存在するさまざまな利害の分布を、そのまま国会に反映することだと解すべきである。
4 両議院の議員は、自分の応援してくれる特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するのではなく、あくまで全国民を代表するものと解すべきである。
5 特に衆議院の議員定数については、地域振興の観点から過疎地域に多めに定数を配布することによって、社会的弱者の代表を実現すべきである。



【正解】 4

【解説】
 本問も前問同様、現場思考型といえますね。行政書士試験においても、こうした問題が増加してきていることには要注意です。まずは問題をしっかり読んで国語の問題として対応すれば、4のみが「一部の国民を代表するのではな」いことから正解であることがわかると思います。
 ただ、この問題も憲法における国民代表に関する基礎知識があるか否かで、速く正確に解けたか否かに大きな差が生まれたと思われます。国民代表をどう考えるかについては、代表者(議員)と国民の関係をどう考えるかに関わってきますね。特に、4の肢が、選挙民の意思には拘束されずに議員が自由な立場から政治活動できるという自由委任で、他の肢はそれを純粋に貫いたものではないということがわかれば、正解できると思います。

★第2問、第3問ともに基礎法学とはいっても憲法の理解をベースとした問題といえます。行政書士試験での出題が従来から予想されていた「憲法の意義」や「国民代表」といったテーマがこうして実際の行政書士試験で出題されたことから、いよいよ「法の支配」「法治主義」あたりが出題されることが予想されます。




平成14年行政書士試験 第5問

【問題】次の記述のうち、最高裁判所の判例として誤っているものはどれか。

1 裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるという見解には、憲法上および法令上の根拠がない。
2 憲法第81条の列挙事項に挙げられていないので、日本の裁判所は、条約を違憲審査の対象とすることはできない。
3 国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、それが、法律上の争訟になり、有効無効の判断が法律上可能であっても、司法審査の対象にならない。
4 第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪ってはならない。
5 国会議員の立法行為は、憲法の文言に明白に違反しているにもかかわらず立法を行うというような例外的な場合を除き、国家賠償法上は違法の評価を受けない。



【正解】 2

【解説】
1 正
 例えば、何らの被害を受けていないXさんが急に思い立って自衛隊は違憲ではないかという訴訟を起こして裁判所の判断をあおぐように、裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるか否か、については争いがあります。
 この点、日本国憲法上、抽象的違憲審査制に関する手続的規定がないことなどから、具体的な訴訟事件を前提としてその解決に必要な限りにおいて違憲審査制を行使できる付随的違憲審査制を採っていると一般的に解されています。
 つまり、先の例のXさんは、裁判所に自衛隊の合憲性の判断を求めることはできないことになります。判断を求めるためには、自衛隊によって自分の土地を奪われたとか、自衛隊関連の罰則に触れた等、具体的な訴訟事件が起こされ、その中で主張することが必要になります。
 判例も、「わが現行の制度の下においては特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上および法令上何等の根拠も存しない(警察予備隊違憲訴訟(最判昭27.10.8))」と、判断しています。
 よって、本肢は正しいです。

2 誤
 条約について違憲審査の対象となるかが問題となっています。
 たしかに、81条は条約を挙げていませんし、条約が国家間の同意であることからすれば、特別の配慮が必要で、違憲審査の対象とならないようにもみえますね。
 しかし、条約は法律より強い効力をもつ法令とされていますから、条約に違憲審査が及ばないとすると、強い人権制限を定めた条約を締結することで、国民の人権が侵害される可能性が生じてしまいます。
 ですから、条約も違憲審査の対象となると解するのが一般です。判例も日米安保条約の合憲性が問題となった砂川事件において、高度に政治性のある条約に対しても一見きわめて明白に違憲と認められる場合には違憲審査できるとしています。

3 正
 裁判所による法律的な判断が理論的には可能であるのに、高度の政治性があるために司法審査の対象から除外される国家行為のことを統治行為といいます。
 自衛隊や日米安保条約の合憲性は、この理論により、違憲審査から除外されると解されています。こうした高度の政治性をもつ問題は、裁判所ではなく、国民の意思を反映した国会等の政治部門で判断すべきというのですね。
 判例は衆議院解散の効力が争われた事件(苫米地事件(最判昭35.6.8))で、衆議院の解散の是否は、「裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている」と判示し、統治行為の存在を是認しています。よって、本肢は正しいことになります。
 なお、前述の砂川事件においては、高度な政治性ある行為についても、一見きわめて明白に違憲である場合には違憲審査の可能性が認められています。

4 正
 密輸した貨物を国家により没収された者が、没収した貨物には第三者の所有物が含まれており、所有者に告知するなど財産権擁護の機会を全く与えることなく没収したのは憲法29条1項に反すると争った事件(第三者所有物没収事件(最判昭37.11.28))で、判例は、「その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは著しく不合理であって、憲法の容認しないところであるといわなければならない。」と判示しています。よって、本肢は正しいことになります。

5 正
 重度身障者の在宅投票制度を廃止したままその復活を怠った立法上の不作為(法改正をしないこと)は違憲であるとして、国家賠償請求をした事件(在宅投票制度廃止事件(最判昭60.11.21))で、判例は「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けない。」としています。
 つまり、どのような法律をつくるかについては、国会議員に裁量権があり、憲法の文言上明らかに違憲といえるような例外的な場合を除き、国家賠償の対象とはならないというのですね。
 よって、本肢は正しいです。

☆本問はいずれも基本的かつ著名な判例の理解を問うものであり、きちんとした行政書士試験対策をしていれば容易に正解できるといえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第7問

【問題】次のア〜オの記述のうち、問題となる規制の態様が、「事前抑制」に当たり、なおかつ、関連する最高裁判例の趣旨に合致しているものは、いくつあるか。

ア 外国から輸入しようとした出版物にわいせつな表現が含まれている場合、これを税関が輸入禁制品として没収するのは、違憲である。
イ 裁判所が、仮処分の形で、名誉毀損的表現を含む書物の出版を前もって差し止めるのは、当事者に充分な意見陳述の機会が与えられていれば、合憲である。
ウ 新しく小売市場を開設しようとするものに対して、既存の小売市場との距離が接近していることを理由に、県知事がこれを不許可とするのは、違憲である。
エ 勤務時間外に公務員が支持政党のポスターを公営掲示場に貼りに行った行為を、公務の政治的中立性を理由に処罰するのは、合憲である。
オ 高校の政治経済の教科書を執筆し、その出版を企てるものに対して、国が予めその内容を審査し、記述の変更を求めるのは、違憲である。

1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ


【正解】 1

【解説】
ア 誤
 税関検査は、国民が書籍等に接する前に表現の内容に着目して規制がなされるものですから、事前抑制に当たり得ます。
 そして税関検査については、事前抑制の中でも最も強度の規制である検閲にあたるのではないかが問題とされましたが、判例は税関検査は検閲にあたらず、合憲としていますね。検閲とは、「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止すること」と定義されますが、税関検査の場合は、表現物は国外で発表ずみであり、輸入禁止されても発表の機会が全面的に奪われるわけではない、等を理由に検閲にはあたらないとされています。
 検閲にはあたらないとしても、事前抑制の一種として違憲ではないかがなお問題とされますが、判例は、「健全な性的風俗を維持確保するため、国外のわいせつ表現物の注入を水際で阻止する結果、発表の自由と知る自由が制限されることになってもやむを得ない」としています(税関検査事件判決、最判昭59.12.12)。 よって、肢アは最高裁判例の趣旨に合致していませんので、誤りです。

イ 正
 裁判所が、仮処分の形で名誉毀損的表現を含む書物の出版を前もって差し止めるのですから、事前抑制に当たります。このような事前抑制は表現が世の中にでる前に規制するものですから、表現の自由(21条)に対する強い規制として、原則として許されません(事前抑制禁止の法理)。
 ただ、判例は、「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるとき」は、例外的に事前差し止めが許される」とし、それには、「口頭弁論等を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきものと解するのが相当である」と判示しました(北方ジャーナル事件、最判61.6.11)。
 つまり、被害者の名誉権などの観点から事前抑制を認める必要が強い場合に、口頭弁論などきちんとした手続をとれば、裁判所による事前差止も許される場合があるとしたのですね。
 よって、本肢は正しいことになります。

ウ 誤
 本肢は、小売市場を開設しようとする者に対して、県知事がこれを不許可とするものですから、職業選択の自由(22条)の制限の問題であり、表現内容を規制する事前抑制の問題ではありません。
 ここで、この肢は誤りということが解りますが、一応最高裁判所の趣旨に合致するかもみておきます。小売市場事件(最判昭47.11.22)で判例は、小売市場の許可規制は、経済的基盤の弱い小売商を相互間の過当競争による共倒れから保護するという積極目的の規制であり、許可基準は目的において一応の合理性があり、その規制の手段・態様において著しく不合理であることは明白ではないのだから、規制は合憲である、と判示しています。
 よって、この点でも誤りです。

エ 誤
 本肢は、ポスターを貼った行為を事後的に処罰するものですから、事前抑制の問題ではありません。よって、この点で本肢は誤りといえます。ただ、最高裁判所の判例(猿払事件)には合致しています。

オ 誤
 高校の政治経済の教科書を執筆し、その出版を企てるものに対して、国が予めその内容を審査し記述の変更を求めるのは、事前抑制の問題になり得ます。ただ、判例は、教科書検定は、不合格となった図書が一般図書として発行されることを何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲に当たらず合憲(家永訴訟判決、最判平5.3.16)と、解しています。
 よって、本肢は誤りです。  

☆本問は、正誤を判断させるだけでなく、事前抑制か否かも聞いている点、そして個数問題である点で、行政書士試験のレベルとしてはヒネリがあるといえるでしょう。ただ、出題されている判例自体は行政書士試験においても基本的なものですから、理解していれば正解できるといえるでしょう。




平成14年行政書士試験 第9問

【問題】行政処分により課された義務を履行しない者に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 義務不履行者には刑事罰が科されることが原則であり、罰則の間接強制により行政処分の実効性が確保される。
2 義務不履行者には、執行罰としての過料が課されることとなっており、金銭的な負担を通じて行政処分の実効性が確保されることが原則である。
3 義務不履行者に対しては、行政機関の職員による行政強制を通じて、義務を履行させることが原則である。
4 義務不履行者に対しては、行政強制、罰則の間接強制などによる実効性の確保が図られるが、統一的な仕組みが設けられているわけではない。
5 義務不履行者に対し義務履行を確保するためには、行政機関は裁判所に出訴して司法的執行に委ねなければならない。


【正解】 4

【解説】
1 誤 刑事罰ではなく、行政罰ですね。刑事罰というのは、殺人罪や強盗罪のような刑事犯について科されるものです。「刑事罰と行政罰とでは法人処罰や両罰規定の有無といった点で異なる」といったことがよく言われることからもわかるでしょう。

2 誤 執行罰による過料が強制執行の原則であるかのような記述になっていますが、そうではありませんね。執行罰は「○週間以内に○○しないならば○万円を過料として支払え」といった形で、行政庁が心理的プレッシャーをかけて義務を強制するものですから、人格尊重の観点から問題があるとされていて、現行法では砂防法に例があるだけですね。

3 誤 行政強制は行政庁が行うとされていることが多いですね。代執行であれば、行政庁から指定を受けた第三者が行うことも可能ですね。行政機関の職員も実際に行政強制の現場で手足となって動くことはあっても、それはあくまで行政庁の名で行われるものであって、「行政機関の職員による行政強制」というのは表現として適切とはいえないと思われます。

4 正 行政強制・行政罰については、例えば「行政強制法」といった立法がなされているわけでもなく、代執行法や国税徴収法のほか、個別の法律で別々に定められているにすぎません。ですから、「統一的な仕組みが設けられているわけではない」というのはその通りですね。

5 誤 行政庁には自力執行が認められていますから、国民が民事上の義務に反した場合と異なり、裁判手続きによる必要はないですね(裁判省略の特権)。

☆本問は基本的な問題といえますが、抽象的な訊き方をすることで、基礎的な理解や知識が使える段階にあるかどうかを試す良問といえるでしょう。近時の行政書士試験において増えている問題形式でもあります。



平成14年行政書士試験 第10問

【問題】国または公共団体が、国家賠償法に基づいて被害者に賠償金を支払った後の求償関係についての記述として、妥当なものはどれか。

1 国または公共団体は、加害行為を行った公務員に対し、その加害行為が軽過失による場合であっても、求償することができる。
2 国または公共団体の加害行為を行った公務員に対する求償権については、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は適用されない。
3 国または公共団体は、加害行為を行った公務員に対して求償することが認められていることから、職務上の義務違反を理由とする懲戒処分を行うことはできない。
4 国または公共団体が加害行為を行った公務員に対して求償する場合、被害者に支払った損害賠償額全額、支払日以降の法定利定および弁護士費用を請求できる。
5 国または公共団体が、被害者との間の和解に基づいて損害賠償金を支払ったときは、加害行為を行った公務員に対しては求償できない。


【正解】 2

【解説】
1 誤 公務員個人に対して求償できるのは、その公務員に故意または重過失があった場合のみですね(1条2項)。

2 正 国家賠償法に基づく損害賠償請求権については、4条に基づいて民法724条が適用され、「損害及び加害者を知った時から3年」という消滅時効期間が適用されますね。しかし、本肢で問われているのは求償権の消滅時効ですので、民法上の原則である民法167条1項が適用されて、10年の消滅時効期間とされます。損害賠償請求権そのものが問われていることと勘違いしないようにしましょう。本肢は、その点との違いを意識させるねらいと思われます。

3 誤 求償責任を負うことと、懲戒責任は別問題ですね。民事・刑事上の責任と、懲戒責任とが性質が異なることはいろいろなところで学ぶことと思いますので、そのことが思い浮かべば解けるでしょう。

4 誤 弁護士費用までは求償できないと解されています。

5 誤 和解したからといって、求償ができなくなるわけではありません。

☆本問は肢4・5で訴訟法的な知識が問われており、行政書士試験レベルにおいてはやや細かい問題といえます。ただ、肢2が正解であることは何とか判断したいところといえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第11問

【問題】次の記述のうち、行政事件訴訟法の条文に照らして正しいものはどれか。

1 「不作為の違法確認の訴え」の地方裁判所係属中に行政庁が当該申請を認める処分をした場合、原告国民は適時に、違法であった不作為に基づく損害の賠償を求める訴えに変更する旨を申し立てることができる。
2 「処分の取消しの訴え」の利益が訴訟係属中に消滅した場合には、損害賠償の訴えに変更することは許されない。
3 「処分の取消しの訴え」の地方裁判所係属中に、関連請求として損害賠償請求を追加的に併合するようなことは、許されない。
4 「無効等確認の訴え」を、処分の無効に基づく損害賠償の訴えに変更するようなことは、許されない。
5 「裁決の取消しの訴え」を「処分の取消しの訴え」と併合して提起するようなことは、許されない。


【正解】 1

【解説】
 本問では、「訴えの変更」と「請求の併合」が問われています。
 まず、訴えの変更というのは、原告が当初起こした訴訟では、紛争の解決として適当でないような場合に、同じ訴訟のなかで審判の対象を新たなテーマに変更することです。21条は、取消訴訟を国家賠償請求訴訟に変更することを認めています。
 例えば、取消訴訟の係属中に訴えの利益が消滅しても、国家賠償請求はなお可能な場合があります。このような場合、新たに国家賠償請求訴訟を提起しなければならないとすると、原告への大きな負担となってしまいます。新たな訴訟を提起しなくとも、取消訴訟から国家賠償請求訴訟への変更が認められれば、大変便利ですね。そうした観点から認められています。

 次に、請求の併合というのは、一つの訴えの中で、複数の請求をなす場合のことです。たとえば、取消訴訟と国家賠償請求訴訟を同時に起こしたいという場合、別々に起こすのは面倒ですよね。証拠なども共通している可能性が高く、まとめて一つの訴えの中で処理した方が便宜といえます。そこで認められたものです。
 ただ、何でもまとめて一つの訴えとして提起できるわけではなく、行政事件訴訟法は、取消訴訟の「関連請求」に該当する場合のみ認められるとされています(16条1項)。そして、この関連請求が何であるかについては、13条で定めています。本問に関係するところでは1号の損害賠償請求(国家賠償請求)、3号の裁決の取消訴訟があげられ、これらは関連請求として取消訴訟に併合できます。

 さらに、はじめから一つの訴えの中で請求するのではなく、あとから関連請求を付け加える、追加的併合も認められています(19条)。

 長くなりましたが、以上の基礎知識を前提にすれば、本問は容易に解けると思います。

1 正 訴えの変更に関する21条は、38条で取消訴訟以外の抗告訴訟にも準用されますので、不作為の違法確認の訴えを損害賠償請求訴訟に変更することも認められます。
2 誤 これが許されるのは前述の通りです。
3 誤 追加的併合が問われていますが、損害賠償請求は、取消訴訟の関連請求にあたりますので許されますね。
4 誤 1で述べたように、21条は他の抗告訴訟にも準用されますので、無効等確認の訴えを、損害賠償請求訴訟に変更することも可能です。
5 誤 裁決取消しの訴えも、取消訴訟の関連請求にあたりますので、併合が可能ですね。

☆本問は、それまでの行政書士の過去問ではほとんど問われていない分野からの出題であり、また条文中心で学んでいた方も、ここまで柔軟に使いこなせるレベルに達していた方はあまりいなかったのではないかと思われます。その点ではとまどった方も多いかもしれませんが、行政書士試験対策としても、できれば上記の基礎知識は知っておいて欲しいところです。



平成14年行政書士試験 第12問

【問題】行政手続法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1 行政手続法は、いわゆる情報公開法に先んじて施行された。
2 行政手続法の条文総数は、38ヵ条である。
3 行政手続法は、その第1条(目的)で行政運営における公正・透明の原則と並んで、説明責任(アカウンタビリティ)を明示している。
4 行政手続法が規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
5 地方公共団体は、行政手続法第3条第2項において同法の規定を適用しないこととされた手続について、同法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。



【正解】 3

【解説】
1 正 行政手続法の施行は平成6年10月1日であるのに対し、情報公開法は平成13年4月1日です。情報公開法が最近施行されたということから、わかると思います。

2 正 38条からなりますね。試験科目となっている各法令が何条からなるかまで、明確に押さえている人は少なかったと思いますが、最後の38条自体が重要な条文ですし、普段から条文に親しんでいれば、何とか判断できると思います。

3 誤 行政手続法1条は、行政運営における公正の確保と透明性の向上はうたっていますが、説明責任は明示していません。説明責任は、情報公開法では明示されていますね。

4 正 行政手続法1条2項にあるように、他の法律に特別の定めがある場合には、その定めが優先的に適用されます。一般法と特別法の関係ですね。

5 正 38条の通りですね。地方自治尊重のため3条2項で適用除外とされた処分・行政指導・届出も、どのような手続によっても良いというわけではないので、それぞれの地方自治体で、行政手続条例を制定するなどの措置をとるよう努力すべきとしているわけですね。ただ、地方自治の尊重の観点から努力義務とされています。

☆本問は肢1,2で、今までの行政書士試験とは少し違った観点からの出題がなされていますので、多少驚かれた方も多いと思います。ただ、肢3が誤であることは行政書士試験対策としても基本的な知識であり、判断できてほしいところです。3は、1同様、情報公開法を意識しての出題と思われます。



平成14年行政書士試験 第17問

【問題】次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 地方公共団体における事務の手数料に関する事項は、必ず条例で定めなければならない。
2 地方公共団体の長が提出した予算案に対し、議会は、削減または否決することはできるが、増額の修正を議決することはできない。
3 地方公共団体は、予算外の支出が必要な場合には、必ず追加の補正予算を組まなければならない。
4 地方公共団体は、個別に議会の議決を経なければ補助金を交付することができない。
5 地方公共団体の契約は、一般競争入札、随意契約またはせり売りによらなければならない。


【正解】 1

【解説】
1 正 分担金、使用料、および手数料に関する事項については、条例で定めなければなりません(228条1項、96条1項4号)。これらは住民に一定の負担を求めるものですから、住民代表機関である議会が制定した条例で制定する必要があります。逆に、長が定める規則でも制定できるとすると、長の一存で住民の財産権が脅かされることになりかねませんね。よって正しいとなります。

2 誤 増額修正も長の提案権を侵害しない限りにおいて認められています(97条2項)。予算提出は元来、行政権に属しますので、長の権限です。議会はそれをチェックするために議決をしますので、長の予算提出権を侵害して、全く別物の予算となってしまうほど議会が修正することまでは認められません。しかし、そこまでいかないのであれば、増額修正も認められるわけですね。よって誤りとなります。

3 誤 歳出歳入予算には、予算外の支出や予算超過の支出に充てるため予備費の計上が義務づけられているので、それでまかなえるのであれば、必ず追加の補正予算を組まなければならないわけではありません。よって誤りです。

4 誤 地方公共団体は、その公益上必要がある場合には、寄付又は補助をすることができます(232条の2)。つまり地方公共団体は、公益上の必要さえあれば、予算措置だけによって補助金などを支出することができます。つまり、個別の議会の議決を経なくとも、一括して予算の議決があれば、支出できることになります。よって誤りとなります。

5 誤 地方公共団体の行う、売買、賃貸、請負その他の契約は、原則として、一般競争入札の方法によるものとされます。これは地方公共団体の契約は、まず公正を旨とすべですから、このためには広く誰でも入札に参加することができ、契約手続も公開されている一般競争入札が最も基本となるわけです。しかし、政令で定める場合には、指名競争入札(資力・信用などについて適当と認める特定多数の入札参加者による入札)、随意契約(競争の方法によらず、任意に特定の相手方を選んで契約を締結する方法)、せり売り(口頭での競売)の方法によることができるとされています(234条)。
 よって、指名競争入札によることができる場合もありますので、誤りとなります。

☆本問は肢4や5で、行政書士試験の問題としては比較的マイナーな分野からの出題がなされていると感じる方も多いかもしれませんが、肢1〜3は行政書士試験対策としてはごく基本的なものといえますので、正解したい問題といえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第27問

【問題】意思表示に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 使者が本人の意思を第三者に表示する場合、その意思表示に錯誤があったか否かは、使者を基準に判断する。
2 詐欺および強迫による意思表示は、心裡留保、虚偽表示および錯誤と同様に、表示に対応する内心的効果意思の欠缺する意思表示である。
3 動機の錯誤は、表示意思と表示との不一致を表意者が知らない場合である。
4 本人が強迫を受けて代理権を授与した場合には、代理人が強迫を受けていないときでも、本人は代理権授与行為を取り消すことができる。
5 心裡留保は、表意者が内心的効果意思と表示とが一致しないことを知っている場合であるが、錯誤と虚偽表示はその不一致を知らない場合である。



【正解】 4

【解説】
1 誤
 使者とは、本人の決定した意思を相手方に表示して意思表示を完成させる者のことをいいます。例えば、Aがある銘柄のお菓子一箱をC店で買う意思決定をし、この契約申込の表示を使者Bにさせるような場合です。意思決定をするのは本人自身である点で、代理人と異なります(代理人の場合はどういうお菓子をいくらで買うかという意思決定も代理人が行います)。そして、使者Bがお菓子ではなく、よく似た名前のおもちゃを買ってしまった場合、勘違いにより意思と表示が食い違ったとして錯誤が問題となります。この場合、錯誤があったかは、本人の意思と使者が行った表示に食い違いがあったかにより判断します。本人の意思を基準としますので、「使者を基準に判断」というのは誤りとなります。

2 誤
 心裡留保や虚偽表示、錯誤といった意思の欠缺の場合は、例えば売買契約の場合、その物を買ったり売ったりする意思が欠けているのですが、詐欺や強迫といった瑕疵ある意思表示の場合は、騙されたり脅されたりしたにせよ、その物を買ったり売ったりする意思はあるわけです。よって誤りとなります。

3 誤
 表示意思と表示との不一致を表意者が知らない場合は通常のいわゆる錯誤です。典型例は言い間違いです。甲土地を売るつもりで、乙土地を売ると表示をしてしまったような場合です。これに対し動機の錯誤とは、意思表示そのものではなく、意思を形成する過程としての動機の点に錯誤があることをいいます。典型例は性状の錯誤です。性能の良いパソコンだと思って購入したところ、実は性能が悪かったような場合です。この場合、動機に勘違いがありますが、このパソコンを買うという意思で、このパソコンを買うという表示をしていますので、意思と表示に食い違いはありません。

4 正
 代理権授与行為は、一般的には契約と解されていますので、強迫を受けて代理権を授与した場合には、本人は代理権授与行為を取り消すことができます。  

5 誤
 心裡留保は表意者が内心的効果意思と表示とが一致しないことを知っている場合です。この点は正しいです。また錯誤はその不一致を知らない場合であるという記述もその通りです。ただ、虚偽表示はその不一致を知っている場合ですので、その点が誤りです。

★意思表示についての基本的な概念を問う、行政書士試験におけるごくスタンダードな問題です。4は代理権授与行為も意思表示に基づくことがわかれば、強迫により取り消せることはわかると思います。



平成14年行政書士試験 第28問

【問題】占有権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 土地の所有者が自己所有地を他人に賃貸して土地を引き渡した場合、土地の占有権は賃借人に移転するから、所有者は土地の占有権を失う。
2 動産の質権者が占有を奪われた場合、占有回収の訴えによって質物を取り戻すことができるほか、質権に基づく物権的請求権によっても質物を取り戻すことができる。
3 だまされて任意に自己所有の動産を他人に引き渡した者は、占有回収の訴えを提起してその動産を取り戻すことができる。
4 土地賃借人である被相続人が死亡した場合、その相続人は、賃借地を現実に支配しなくても賃借人の死亡により当然に賃借地の占有権を取得する。
5 Aが横浜のB倉庫に置いてある商品をCに売却し、B倉庫の経営会社に対して以後はCのために商品を保管するように通知した場合、B倉庫会社がこれを承諾したときに占有権はAからCに移転する。


【正解】 4

【解説】
1 誤
 土地の所有者が自己所有地を他人に賃貸して土地を引き渡した場合、土地の直接の占有は賃借人に移転しますが、所有者は借地人の占有を介してこの土地を間接的に所持し、占有するものとみなされていますので(間接占有)、占有権を失うという点が誤りです。

2 誤
 動産の質権者が占有を奪われた場合、質権に基づく物権的請求権によって質物を取り戻すことはできません。これは、質権者は継続占有を失っており、第三者に対抗することができないからです。よって、この点が誤りです。ただ、質物の取り戻しができないのは不都合なので、占有回収の訴えによって質物を取り戻すことはできるとされています(353条)。

3 誤
 だまされて任意に自己所有の動産を他人に引き渡した者は、占有回収の訴えを提起してその動産を取り戻すことができません(200条1項)。占有回収の訴えは、占有を「奪われたとき」にのみ認められ、だまされた場合や遺失の場合は該当しないからです。

4 正
 その通り。相続人は、相続開始の時から、一身専属権を除いて被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(896条本文)。したがって、占有権も当然にその相続財産に含まれますので、その相続人は、賃借地を現実に支配しなくても賃借人の死亡により当然に賃借地の占有権を取得することになります。

5 誤
 Aが横浜のB倉庫に置いてある商品をCに売却し、B倉庫の経営会社に対して以後はCのために商品を保管するように通知した場合、B倉庫会社がこれを承諾しなくても、占有権はAからCに移転します(指図による占有移転・184条)。指図による占有移転の場合、譲渡人(A)と譲受人(C)の占有移転の合意と、譲渡人(A)の占有代理人(B)に対する一方的意思表示があれば足り、占有代理人(B)の承諾を必要とはしないのです。

★占有に関する基本的知識を問う問題です。行政書士試験では比較的よく出題される事項であり、条文の意味等についてしっかり学習していれば解答は容易といえるでしょう。




平成14年行政書士試験 第29問

【問題】民法上の請負契約に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 特約がないかぎり、請負人は自ら仕事を完成する義務を負うから、下請負人に仕事を委託することはできない。
2 注文者は、仕事完成までの間は、損害賠償をすれば、何らの理由なくして契約を解除することができる。
3 完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があって、契約をした目的が達成できない場合には、注文者は契約を解除することができる。
4 完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があった場合、注文者は修補か、損害賠償のいずれかを選択して請負人に請求することができるが、両方同時に請求することはできない。
5 最高裁判例によれば、仕事完成までの間に注文者が請負代金の大部分を支払っていた場合でも、請負人が材料全部を供給したときは、完成した仕事の目的物である建物の所有権は請負人に帰属する。



【正解】 2

【解説】
1 誤
 請負契約は仕事の完成そのものを目的とし、労務そのものを目的とするものではありません。すなわち、労務の供給は仕事完成の手段にすぎず、他の人に下請負させてもよいのです(但し業法による制限はありますが)。つまり、とにかく仕事が完成しさえすればよいので、他の人にやらせてよいわけです。実際も建物の建設を建設会社にお願いするような建築請負契約においても、下請負がよく行われていますね。
 以上に対し、委任契約や雇用契約においては、委任を受けた受任者や被用者が他の人に仕事をさせることは原則としてできないことになっています(雇用について625条2項)。これらは、高度な個人的信頼関係に基づく契約ですので、仕事の完成というよりは、本人自身が履行することに意義があるのですね。こうした違いは知っておきましょう。

2 正
 請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも、理由のいかんを問わず、損害を賠償して、契約の解除をすることができます(641条)。これは注文者にとって不要となった仕事を強いて完成させる必要はないからです。

3 誤
 仕事の目的物に瑕疵があるために契約の目的を達成することができないときは、注文者は契約を解除することができます(635条本文)しかし、建物などの土地の工作物の請負は、たとえ重大な瑕疵があっても解除をすることはできません(同条但書)。建物は価値が高いので、完成後に解除して取り壊すのは社会経済上も不利益だからです。
 なお、建物完成前については、選択肢2でみた641条に基づいて未完成部分については解除できます。

4 誤
 完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があった場合、注文者は修補だけを請求することも、損害賠償をだけを請求することもできます。また、両方同時に請求することもできます(634条)。

5 誤
 請負によって完成した建物が誰の所有に帰属するかについては争いがあります。最高裁判例は、まず当事者の合意があればそれにより、合意がなければ材料を注文者と請負人(例えば建設会社)のどちらが供給したかにより決するとします。請負人が材料を供給した場合は、完成建物は請負人の所有となり、引渡により注文者に所有権が移転することになります。これに対し、注文者が材料を供給したときは、はじめから注文者の所有となります。
 このような観点からすると、本問では「請負人が材料全部を供給」している以上、完成建物は請負人の所有となりそうですが、仕事完成までの間に注文者が請負代金の大部分を支払っていた場合には、判例は「黙示の合意」を認めて注文者の所有とするのです。よって誤りとなります。

☆肢5は行政書士試験レベルでは少し難しいかもしれません、あとはいずれも基本的な知識問題といえます。ある程度準備しておけば易しい問題といえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第30問

【問題】親子に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 夫と他の女性との間に生まれた子を夫婦の嫡出子として出生の届出をした場合、この届出は、嫡出子出生届としては無効であるが、特別養子縁組届としての効力を有する。
2 夫が子の出生後その嫡出性を承認した場合には、夫は、嫡出否認の訴えを提起することはできなくなる。
3 妻が婚姻成立の日から200日後に出産した子は嫡出子と推定されるから、たとえ夫による懐胎が不可能な場合であっても、嫡出否認の訴えによらなければ、夫は親子関係を否定することはできない。
4 未成年者が認知をするには、法定代理人の同意を要する。
5 非嫡出子が認知請求権を放棄する契約をしたときは、父に対して認知の訴えを提起することはできなくなる。



【正解】 2

【解説】
1 誤
 養子縁組は要式行為ですので、きちんとした様式を踏まなくてはいけません。よって、嫡出子の出生届をもって、特別養子縁組の届出があったものとなすことはできないとされています。

2 正
 夫が、子の出生後その嫡出性を承認したときには、否認権は消滅します(776条)。

3 誤
 妻が婚姻成立の日から200日後に出産した子は夫の子と推定されますので、父子関係を切断するには、通常は嫡出否認の訴えによらなければなりません。ちなみに婚姻成立から200日以内に生まれた場合は推定されない嫡出子となりますから、父子関係を切断するには親子関係不存在の訴えによるのですね。ここまでは基本ですから確認しておきましょう。
 以上からすれば、夫の子と推定され、嫡出否認の訴えによることになりそうなのですが、この制度は、夫婦が同居し、正常な婚姻生活を営んでおり、妻の貞節が期待しうるところに成立するものですから、このような前提の成立しない場合には、夫の子との推定は及びません。したがって、夫は、親子関係不存在確認の訴えによって父子関係をいつでも否定できます。

4 誤
 未成年者が認知をするには法定代理人の同意を要しません。なぜならば認知は身分行為ですから、意思能力さえあれば自ら行うことができるからです。身分行為については総則の規定が必ずしも適用されないことを押さえておきましょう。

5 誤
 認知請求権の放棄契約は非嫡出子の保護が損なわれることがあるため、無効であるとされています。したがって、非嫡出子が認知請求権を放棄する契約をしたときでも、父に対して認知の訴えを提起することはできます。

☆本問は行政書士試験の問題としては、やや細かい知識を問うものです。特に肢1、3、5については、基本的な知識をふまえて行政書士試験の現場で推論することが要求されているといえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第33問

【問題】商号に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 商号は、営業上自己を表示するために用いられるものであるから、文字だけではなく、図形や記号をもって表示してもよい。
2 商号の使用は会社企業に限られ、会社でない個人企業は商号を用いることはできず、その名称は企業者個人の氏名を表示しているにすぎない。
3 わが国では、商人の利益保護の観点から商号自由主義が採用されているので、商人は商号の選定につき制限を受けることなく、自由に選定できる。
4 商号が東京都内で登記されたときは、他の者は、東京都内において、同一の営業のために同一の商号を登記することはできない。
5 商号を選択し登記した者は、利益を害せられるおそれのあるときは、不正の目的をもって当該商号選択者の営業と誤認させるような商号の使用行為の差止めを請求することができるし、商号不正使用者は過料にも処せられる。


【正解】 5

【解説】
1 誤
 商号とは商人が営業上の活動において自己を表示するために使う名称です。商号は対外的に自己を表すものである以上、呼称しえるものでなければならず、必ず文字をもって表示しなければいけません。
 したがって、図形や記号では、第三者が呼称し得えないので、認められていません。

2 誤
 商号は商人の名称ですので、会社でない個人企業でも、商人である以上、商号を用いることができます(18条1項参照)。但し、商人でない者、例えば小商人(資本金額50万円未満でかつ会社でない者)が自己を表示するために使う名称は商号とはいえません。
 以上から、本肢は誤りです。

3 誤
 商法16条は、商人が商号を選定するにあたっては、氏名その他の名称を使って商号とすることを認めています。すなわち、商人は自己の営業の実態にかかわらず、自由に商号を選定することができるのですね。これを、商号選定自由の原則といいます。但し、これも全くの自由というわけではなく、会社の商号の中には、当該会社の種類に応じて株式会社などの文字を用いなければならないし(17条、有3条1項)、会社でもないのに、商号の中に会社であることを示すような文字を用いることはできません。加えて、不正の目的を以て他人の営業と誤認させるような商号を使用することも禁じられています(21条1項)。よって、本肢は誤りです。

4 誤
 商号を登記しておけば、他人は同一市町村内において同一の営業のために同じ商号について登記することはできません(19条)。ここでいう市町村とは東京都の特別区の存在する区域では、その各区を意味します。したがって、東京都内のある区で登記されていても、他の区であれば同一の営業のために同一の商号の登記はできます。よって、本肢は誤りです。

5 正
 商号を選択し登記した者は、不正競争の目的をもって同一又は類似の商号を使用する者に対して、その使用について差止請求や損害賠償の請求をすることができます(20条)。加えて商号不正使用者は20万円以下の過料に処せられます(22条)。

☆本問は「商号」という行政書士試験における頻出分野からの出題であるだけでなく、内容的にも基礎的ですから、正解すべき問題といえるでしょう。



平成14年行政書士試験 第34問

【問題】株式に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 株式が譲渡されると、株主総会の決議により既に確定している配当請求権も移転することになる。
2 株式の譲渡は投下資本の回収を図る手段であるから、株式の自由譲渡性が認められなければならないため、定款で取締役会の承諾を要する旨を定めることはできない。
3 会社は、保有する自己株式を消却することはできない。
4 子会社と親会社が株式交換をする場合には、子会社は親会社の株式を取得することができる。
5 株券発行前の株式の譲渡は無効である。



【正解】 4

【解説】
1 誤
 株式の譲渡により、株主が会社に対して有するすべての法律関係は包括的に移転します。しかし、株主総会の決議により既に確定している配当請求権は、確定の金額の支払いを求める具体的な支払請求債権となり、この権利は株式が譲渡されても当然には移転しません。つまり、独立した債権となっていますので、譲渡するには別途債権譲渡が必要になります。

2 誤
 株主は、原則として、会社に対し株式の買取請求が出来ませんから(資本充実の要請)、自己の投下資本を回収する(株式を現金化する)ためには、その株式を他人に譲渡して代金を受け取るしか方法がないのが原則です。それゆえ、法は、原則として株主に自由な株式の譲渡を認めています(204条1項本文)。
 しかし、わが国の株式会社は、資本の小規模な同族会社がきわめて多く、このような会社では、株式の自由譲渡性を認めると好ましくない者が会社の株主となって会社の運営を妨害し、また会社の乗っ取りを図る危険があって、会社経営の安定性が害されます。
 そこで、株式は原則として他人に譲渡できるが、定款でもって取締役会の承認を要する旨を定めることができるとされています(204条1項但書)。

3 誤
 株式の消却とは、会社がその存続中に特定の株式を絶対的に消滅させる行為のことをいいます。会社は取締役会の決議によって保有する自己株式を消却することができます(212条1項)。

4 正
 子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されていますが、子会社と親会社が株式交換をする場合には、子会社は親会社の株式を取得することができます(211条の2第1項1号)。

5 誤
 株券発行事務の円滑化を図り、その渋滞を防ぐという技術的な要請から、株券発行前の譲渡は会社に対しては無効とされています(204条2項)。しかし、当事者間では、同条の趣旨に反しないので、有効と考えられています(同条反対解釈)。

☆本問は、行政書士試験のレベルとしては少し突っ込んだ内容を含む出題であり、正解できなくても行政書士試験に合格できる問題といえるでしょう。特に肢3と4は近時の改正点を問うものです。改正点には要注意といえるでしょう。



平成13年行政書士試験 第1問

【問題】「法律なければ刑罰なし」という法的格言の今日的意味を表す記述として、正しいものはどれか。

1 国民の行為を禁ずる法律が少なければ、国民の犯罪処罰も少なくてすむ。
2 法律はそれを免れる新たな犯罪を生み出すので、法律があるため、かえって犯罪処罰が多くなりやすい。
3 人の行為自体に社会的・反社会的の別はなく、禁止する法律があってはじめて人の行為が犯罪となり、刑罰を科されることにもなる。
4 犯罪かどうかは法律以前に社会的に決まっているが、法律の罰則がないと刑罰を科することができない。
5 犯罪と刑罰は、議会が定めた法規によってあらかじめはっきり規定しておかなければ法的に成立しない。



【正解】 5

【解説】
 「法律なければ刑罰なし」とは、罪刑法定主義を表した法格言です。刑罰を科すには、議会の制定した法律によらなければならないというわけです。日本国憲法のもとでも、憲法31条のなかに含まれていると解されています。

 罪刑法定主義の今日的意味としては、自由主義的要請と民主主義的要請が考えられます。つまり、自由主義と民主主義の現れだというのです。
 罪刑法定主義をとることで、国民は、どこまでの行為が処罰されずに許されるのかが、法律を見れば明確にわかります。とすれば、国民にとっては自由に行動できる範囲がわかるわけです。これは自由主義の現れですね(自由主義的要請)。
 そして、法律で刑罰を定めるというのですが、この「法律」というのは、国民代表からなる国会が制定しますね。ですから、何が刑罰とされるかは、国民代表が決める。つまり、民意の反映という民主主義の現れでもあるわけです(民主主義的要請)。
 こうした基礎知識があれば、本問は容易に解答できる問題です。

1 誤 犯罪の件数というのは、国ごとの治安状況にもよります。また、捜査当局の捜査能力にもよるわけです。たとえ処罰規定が少なくとも、治安の悪い国では処罰の件数は多くなります。よって内容的にも誤りと思われます。また、罪刑法定主義の今日的意味とも言えません。
2 誤 新たな処罰規定を法定することで、犯罪の抑止効果というのも期待できます。ですから、「法律があるためかえって犯罪が多くなる」というのは内容的にも誤りと思われますし、罪刑法的主義の今日的意味とは言えません。
3 誤 「人の行為自体に社会的・反社会的の別はなく」とありますが、殺人罪や窃盗罪といった刑法上の罪というのは、反倫理的・反社会的行為です。ですから、内容的にも誤りで、罪刑法定主義の今日的意味とも言えません。
4 誤 本肢は、犯罪が反社会的行為であることと、罪刑法定主義の意義を挙げているだけで、今日的意味とは言えません。
5 正 本肢は「議会が定めた法規によって」という部分で民主主義的要請について触れ、「あらかじめはっきり規定」という部分で処罰範囲を明らかにするという自由主義的要請に触れたものと考えられ、今日的意味を示しているといえるでしょう。よって正解。

★罪刑法定主義については、行政書士試験の憲法や行政法において様々な角度からの出題が考えられますので、基礎的な理解と知識をしっかり頭に入れて、行政書士試験の現場で応用が利くようにしておきましょう。



平成13年行政書士試験 第3問

【問題】日本国憲法の前文は、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と述べて、恐怖から免かれる権利、欠乏から免かれる権利、そして、平和のうちに生存する権利の3種類の権利を宣言している。これをうけて、憲法第3章は、国民の権利と義務を具体的に定めているが、次の条項に掲げる憲法上の諸権利の中に、「欠乏から免かれる権利」に対応するものは、いくつあるか。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
第23条 学問の自由は、これを保障する。
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ


【正解】 1

【解説】
欠乏から免れる権利というのは、「貧困により食べるものにも困る」状況から脱却する権利を意味すると考えられます。とすれば、これに対応するのは、経済的弱者が貧困から免れる権利である生存権に関する25条であり、答えは25条の「一つ」となります。

21条や23条は精神的自由権であり、「欠乏」とは無関係であることがわかると思います。また、24条も婚姻の自由と夫婦の平等を規定するだけで、欠乏から免れるという規定ではありません。

迷うとしたら、22条でしょう。22条の職業選択の自由、さらにはそこから派生する営業の自由も、貧困から脱却する側面も持っていると考える人もいるかもしれません。
しかし、こうした経済的自由権を保障するのみでは、お金持ちがさらにお金持ちになる自由にすぎず、貧しい人はただお金持ちに使われるだけで、貧しくなる自由しかなかったのですね。つまり、貧富の差が開いたのです。
そこで、弱者保護のために生存権をはじめとする社会権が保障されるに至ったわけです。
このように、22条は、欠乏している人=弱者を保護する権利とは言えず、欠乏から免れる権利とはいえません。

結局、「欠乏から免れる権利」といえるのは、弱者保護のための権利である25条のみとなります。

★本問は、「欠乏から免れる権利」という行政書士受験生が普段考えたことのない権利の性質を問うことで、精神的自由権や経済的自由権、社会権といった人権の性質の理解を問うものといえるでしょう。特に、経済的自由権の保障のみでは貧富の差が開いたために、20世紀に入って弱者保護のために社会権が保障されたという点は、行政書士試験の一般知識等対策としても理解しておくべき点といえます。こうした点についての基礎的理解があれば、現場思考で解けた問題といえるでしょう。



平成13年行政書士試験 第6問

【問題】憲法が定める「身分保障」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1 最高裁判所裁判官の報酬は、在任中、これを減額することができない。
2 下級裁判所裁判官の報酬は、在任中、これを減額することができない。
3 内閣総理大臣の報酬は、在任中、これを減額することができない。
4 裁判官は、原則として、公の弾劾によらなければ罷免されない。
5 国会議員は、議院で行った演説、討論、表決につき、院外で責任を問われない。



【正解】 3

【解説】
 本問は条文の知識を問う問題です。こうした問題はきちんと行政書士試験の対策をとっておけば必ず点を取れるものですし、ほとんどの行政書士受験生が正解されると思われますので、とりこぼしのないように準備しておくことが必要です。

1 正
 最高裁判所の裁判官の報酬は在任中減額することができないと定められています(79条6項)。
 歴史的に司法権は、ときの権力者に有利な判決を出すよう利用されてきました。しかし、これでは正義にかなった判決は期待できず、裁判の公正は保てません。そこで、日本国憲法では裁判の公正を守るべく「司法権の独立」を規定しています。そのためには、裁判官の身分保障が重要になるのです。ときの権力者に「いうことを聞かないと報酬を下げるぞ」といわれ、従わざるを得ないのでは、司法権の独立が守られないからです。

2 正
 肢1と同様の理由で、下級裁判所の裁判官の報酬も在任中減額することができないことが定められています(80条2項)。

3 誤
 憲法には内閣総理大臣の報酬については規定されていませんので、減額しても憲法上は問題ありません。前述のような裁判官ほどの身分保障の必要はないからです。よって誤りです。

4 正
 司法権の独立を保障するためには、裁判官の身分が保障されていなければなりません。したがって、憲法は78条で、裁判官は、原則として公の弾劾によらなければ罷免されないと定められているのですね。

5 正
 国会議員には特に議院において活発な議論をすることが期待され、憲法はそのために不逮捕特権や免責特権といった特権を定めています。本肢は免責特権についての記述ですね(51条)
 この規定により、例えば国会議員Aが議院における演説のなかで名誉毀損的発言をしても、刑事責任や民事責任といった「院外での責任」を負いません。つまり、Aは名誉毀損罪にも問われず、また不法行為に基づく損害賠償責任も負いません。
 ただ、「院内での責任」は負いますので、議院内で懲罰の対象となることはあります。この点は注意しておきましょう。

★行政書士試験の問題としてはごく基本的な問題です。確実に得点しましょう。



平成13年行政書士試験 第7問

【問題】日本国憲法が定める憲法改正手続についての次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 憲法の改正は国会が発議するが、そのためには、各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要とされる。
2 憲法の改正は国会が発議するが、両議院の意見が一致しない場合には、衆議院の議決が国会の発議となる。
3 各議院の総議員の3分の2以上の賛成により、特別の憲法制定議会が召集され、そこにおける議決をもって憲法改正草案を策定する。
4 憲法の改正について国民の承認を得るには、特別の国民投票においてその3分の2以上の賛成を得ることが必要である。
5 憲法の改正について国民の承認が得られた場合、内閣総理大臣は、直ちにこれを公布しなくてはならない。



【正解】 1

【解説】
 本問も条文の基本的な理解を問う問題です。前問同様、行政書士試験合格のためには必ず正解すべき問題です。

1 正
 96条1項前段の通りです。総議員の3分の2以上であることに注意しましょう。

2 誤
 憲法の改正の発議には衆議院の優越は認められていません。衆議院の優越が認められる4つの場合(法律の議決・予算の議決・条約の承認・内閣総理大臣の指名)はしっかり覚えましょう。

3 誤
 憲法には本肢のような規定はありません。

4 誤 
 承認は特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成が必要とされています(96条1項後段)。
 注意すべき点としては、最高裁裁判官の国民審査の場合との相違です。国民審査の場合、79条2項で「衆議院議員総選挙の際」と定められています。

5 誤
 公布するのは天皇です(96条2項)。

★前問同様、行政書士試験においてもごく基礎的な問題です。必ず正解しましょう。



平成13年行政書士試験 第28問

【問題】Aは、Bに対する債務を担保するため、BのためにA所有の甲地に抵当権を設定し、この抵当権が実行されてCが甲地を買い受けた。法定地上権に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 抵当権設定当時甲地にA所有の建物が建っていたが、Aが抵当権設定後この建物を取り壊して旧建物と同一規模の新建物を建てた場合、新建物のために法定地上権は成立しない。
2 抵当権設定当時甲地にA所有の建物が建っていたが、Aが抵当権設定後この建物をDに譲渡し、Dのために甲地に賃借権を設定した場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
3 抵当権設定当時甲地にはE所有の建物が建っていたが、抵当権設定後この建物をAが買い受け、抵当権実行当時この建物はAの所有となっていた場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
4 Bのための一番抵当権設定当時甲地は更地であったが、Fのために二番抵当権が設定される前に甲地に建物が建てられた場合、Fの申立てに基づいて土地抵当権が実行されたときは、この建物のために法定地上権が成立する。
5 抵当権設定当時甲地にはA所有の建物が建っていたが、この建物が地震で倒壊したため、抵当権者の承諾を得て建物を建築することになっていた場合、競売後に建物が建築されれば、その建物のために法定地上権が成立する。



【正解】 3

【解説】
 本問は法定地上権の問題ですが、ここは、色々な事例が想定でき、丸暗記しようとするとなかなか大変なところです。そこで、覚えることは最低限に止め、後は抵当権設定者や抵当権者の利益を考え妥当な結論を導いていくようにしましょう。

 まず、法定地上権が成立するには、以下の要件が必要です。
@抵当権設定当時に土地の上に建物が存在すること
A抵当権設定当時に土地と建物とが同一の所有者に帰属すること
B土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されたこと
C競売の結果、土地と建物が別人の所有となったこと

 本問の事例に則して考えてみると、抵当権設定時に、土地と建物がともにAの所有に属し、競売の結果、土地と建物が別人の所有になれば、法定地上権が成立するのですね。本問の場合も、土地をCが競落していますから、その結果、土地はC所有、建物はA所有となれば、Aのために法定地上権が成立し、Aは土地を地上権者として使用できることになります。このような場合、もし法定地上権の制度を認めないと、Aは土地使用権を有していないことになり、土地所有者Cから土地の明け渡しを請求されてしまいます。このような不利益を避けるために法定地上権が認められているのですね。
 これをもとに肢を検討してみましょう。

1 誤
 この場合、@からCの要件を満たしています。しかし、抵当権実行時には別の建物が建っていますので、この点をどう評価するかが問題になります。この点判例は、このような場合でも法定地上権の成立は認められると解しています。なぜならば、この場合でも法定地上権の成立を認めないと建物保護がはかれませんし、他方、抵当権者Bは、もともと法定地上権の負担付きで土地を評価していた(法定地上権がつくことを覚悟していた)のですから不利益はないからです。

2 誤
 この場合も、@からCの要件を満たしています。しかし、Dには賃借権という土地使用権が設定されているのですから、そのうえ法定地上権まで認める必要はないとも思われます。ただ、短期賃借権を除いて、抵当権設定後の借地権は抵当権者に対抗できませんから、Dの賃借権は、これをそのまま存続させることができません。よって、法定地上権を認める必要があります。
 したがって、法定地上権は成立すると解されています。

3 正
 抵当権設定時に同一の所有者に土地建物が帰属していませんので(Aの要件を欠く)、法定地上権は成立しません。

4 誤
 一番抵当権設定時に土地建物がありませんのが(@の要件を欠く)、二番抵当権設定時には@の要件を満たしていることになります。二番抵当権者の申立に基づき抵当権が実行されたのですから、法定地上権を認めてもよいようにも考えられます。しかし、一番抵当権者からすると、更地と評価した土地に法定地上権付きの建物があったら土地の評価は格段に下がってしまい、抵当権者にとって非常に不利益です。したがって、本問のように、二番抵当権の設定時には土地に建物が建ち、法定地上権が成立するようにみえても、一番抵当権の設定時に法定地上権の要件を満たさない以上、法定地上権は成立しないと解されています。

5 誤
 この点、抵当権者の承諾を得ているのですから、法定地上権が成立してもよいように思われるかもしれません。しかし、この土地を競落したCの保護も考えはければなりません。Cはその間の事情を知らないとも考えられます。加えて、法定地上権の存在意義が建物保護だとすると現在保護すべき建物がない以上、法定地上権の成立を認める必要もないと考えられます。したがって、本問のような場合、法定地上権の成立は否定されると解されています。

★法定地上権は行政書士試験においても頻出分野です。判例もたくさんありますが、基本的な仕組みを理解し、そこから判例の理由付けを理解しておくと、行政書士試験対策として無理に記憶する必要はないところです。理解が威力を発揮するところと言えるでしょう。



平成13年行政書士試験 第33問

【問題】Aは、その営業の地域を拡大するのに、支店を設け、営業使用人を用いるか、土地の事情に通じた代理商を用いるかについて検討した。次の検討結果のうち、誤っているものはどれか。

1 商業使用人を用いる場合は自然人でなければならないが、代理商を用いる場合は法人でもよい。
2 商業使用人はAに従属しその商業上の業務を対外的に補助するが、代理商はAから独立しAの企業組織の外部にあって補助することになる。
3 Aとの契約関係は、商業使用人の場合は雇備契約であり、代理商の場合は委任または準委任契約になる。
4 取引に関する代理権は、商業使用人の場合は制限したり授与しないこともできるが、代理商の場合は必ず授与しなければならない。
5 商業使用人のうちの支配人も、代理商も、Aの許諾のない限り、Aの営業に属する取引を自己または第三者のために行うことはできない。



【正解】 4

【解説】
 商業使用人と代理商の違いが問われています。大規模な企業においては、商人が自分だけですべての営業活動を行うことは困難ですね。そこで、他人を使い、営業活動を補助してもらうために、商業使用人や代理商が使用されることがあります。この場合に、雇用契約のもと、企業の内部に取り込まれ、商人の指揮・服従の下にありながら補助するのが商業使用人(ex支店長や部長・課長)です。これに対し、企業の外部から独立の商人として補助するのが代理商です。そして、代理商には本人のためにその取引の代理をする委託を受けた締約代理商(ex損害保険代理店)と本人のためにその取引の媒介をする事務の委託を受ける媒介代理商があります。
 これを前提として、問題を検討します。

1 正 商業使用人とは、支配人(現代でいう支店長、支社長、営業所長などのこと)・番頭・手代(現代でいう部長、次長、課長、主任などのこと)などです。そして、営業主と商業使用人とは雇用関係が結ばれます。したがって、商業使用人は自然人でなければいけません。しかし、代理商は本人の企業組織の外部にあって、自己の商号と店舗を有するものです。したがって、自然人でもよいですし、法人でも構いません。

2 正 そのとおり。前述の解説参照。

3 正 Aとの契約関係は、商業使用人の場合は雇備契約であり、代理商の場合は委任または準委任契約になります。

4 誤 商業使用人の場合は代理権につき、内部的に制限を加えることはできます。ただし、その制限の存在を知らない第三者にはその制限を対抗することはできません(38条3項、43条2項)。これに対し、締約代理商の場合は代理権が授与されますが、媒介代理商は代理権は与えられていません。よって、本肢が誤りとなります。

5 正 支配人にも代理商にもこのような競業避止義務が課されています(41条1項、48条1項)。これらの者は営業上のノウハウなどを知っているので、それを利用して自分のためなどに営業を行うと、営業主の利益が害されてしまうために、競業避止義務が認められているのです。

★商法総則のなかでも行政書士試験として基本的な部分ですので、ぜひとも得点したいところです。


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